映画『星を追う子ども』新海誠監督インタビュー


『ほしのこえ』『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』等、アニメーションでも、実写でもない、ジャンルを越えた魅力的な作品を世に送り出してきた新海誠監督。そしていよいよ5/7(土)、新海監督の最新作『星を追う子ども』が公開となる。今回は、この新作映画の公開を記念し、新海誠監督にいろいろとお話を伺ってきました。

【あらすじ】
ある日、父の形見の鉱石ラジオから聴こえてきた不思議な唄。その唄を忘れられない少女アスナは、地下世界アガルタから来たという少年シュンに出会う。2人は心を通わせるも、少年は突然姿を消してしまう。「もう一度あの人に会いたい」 そう願うアスナの前にシュンと瓜二つの少年シンと、妻との再会を切望しアガルタを探す教師モリサキが現れる。そこに開かれるアガルタへの扉。3人はそれぞれの想いを胸に、伝説の地へ旅に出るー

—作品のテーマについて聞かせてください。また、今までの作品と作風が大きく変わったと思いますがいかがでしょうか?

新海監督「言葉にしづらい面もあるんですが、敢えて言うのであれば「喪失」です。何かを無くした後「次にどうすればいいのか」というのがテーマです。これまでに前作の『秒速5センチメートル』など何本か作品を作っているんですが、どの作品にも共通するテーマとして「喪失」というものがあります。今回もそれは変わっていないです。おっしゃったように『星を追う子ども』を観た方に「今回は大きく変わりましたね」と言われることが多いんですが、本質的には全く(テーマ)を変えているつもりはありません。」

—本作で一番注意した点はどこでしょうか。

新海監督「今までの作品とアプローチを変えたいと思っていました。誰かがいなくなってしまった時、どうすればその「喪失」を乗り越えられるのか。「喪失」の先に行くための過程をきちんと描きたいと考えていました。今までに様々な形でそれを描いてきたつもりなのですが、今回は「身体性」、つまり体を動かすことによって、「喪失」を乗り越える話にしようと思いました。映画を観ていただければ分かると思いますが、この作品の主人公のアスナは最初から最後までずっと走り続けています。転んだり、怪我をしたり、お腹を空かせたり、料理をしたり、ご飯を食べたりします。それはアスナに限らず、映画の登場人物全員が何らかの行動をするようにしました。彼らが行動し、様々な事物を経験して、それによって何かにたどり着くという作品にしたいと思って作りました。」

—絵柄も随分変えていますが、その点についてはいかがでしょうか。

新海監督「「身体性」によってそれを描くと決めた時に、今までと違う絵柄にしようと思いました。本作を観た皆さんが「ジブリみたいだね」とよくおっしゃるんですが、この絵柄は、今では「ジブリ」に代表されますが、古くは東映動画の長編映画であったり、「世界名作劇場」シリーズ(※1970年代からフジテレビ系で放送されていた子供向けTVアニメシリーズ)に続いた日本の絵柄です。この絵柄は今観ても古さを感じさせない、ある種の普遍性があるキャラクターデザインだと思っています。そしてそれはストーリーを語るのに適した”器”であり、この作品を誰が観ても受け入れてもらい易くするために、このキャラクターデザインにしました。また、今回も『秒速5センチメートル』と同じスタッフなんですが、そのスタッフがいままでに、そのタイプの絵柄の作品に携わっていたのも理由の一つだと思います。」

—今回、ストーリーはファンタジー的な内容になっていますが、なぜそうなったのでしょうか。

新海監督「『秒速5センチメートル』を作った後に、文化交流としてイスラム諸国でのワークショップに呼ばれたんです。そこで『秒速5センチメートル』を上映した時、皆さん喜んでくれていたものの、何か居心地の悪い思いを感じていました。勝手に僕がそう思っただけかもしれませんが、それは、桜が舞い、男女共学で・・・というような実に日本的で、変わらない日常の中で、感情の起伏をどこまでも拡大して描いたのが『秒速5センチメートル』だったので、全く文化圏が違う国の人に見せた時に、これを本当に楽しんでくれているのかなという疑問がありました。そんな思いを経験し、次に作る作品は海外の人が観ても単純に「楽しい作品」にしたかったんです。前提の知識がなくても楽しめる作品にするためには明確な物語が必要でした。「主人公がどこかに行って成長し、戻ってくる」という一番シンプルな構造にしました。」

—ジュブナイルというジャンルの魅力はなんでしょうか。

新海監督「未知のものがあって、それがだんだん開けていくという感覚は年齢とともに少なくなってしまうんですが、でもそれを味わわせてくれるものを観たいという気持ちは今でもあるんです。徐々に未知の世界が広がってくる感覚や、「世界はこんなにも美しいし、醜くも辛いものでもあるんだよ」と教えてくれるのがジュブナイルの魅力だと思います。まあ、ジュブナイルというのは一種の方便でもあります(笑)。というのは子供と大人との間には別に断絶がある訳ではなくてグラデーションみたいなものだと思っています。大人みたいな子供もいれば、子供みたいな大人もいる。ジュブナイルと言っているけれども、特別に若い年代のためという訳ではなく、30、40代の方が観賞しても充分楽しめるように作っています。その為にもモリサキというキャラクターを登場させたりしています。」

—新海監督は更にエンタメ作品を作りたいという気持ちはありますか。

新海監督「 エンタテイメントにはいろんな役割があるし、無数に作品があります。無数にある中から、お客さんは好きなものを選べばいいわけです。そんな中で自分が苦労して作品を送り出していくんだったら、多少なりとも他の作品とは違う”機能”を持たせたいと思うんです。たとえば、傷があったら、絆創膏を貼って治しますが、そんな薬のように”効く”作品というのが自分でも欲しいし、存在していて欲しいと思うんです。制作者としては、辛い時期でも自分を支えてくれる作品、人を癒す機能をもった作品であって欲しいと思っています。」

—少し話が横道に外れますが、中高生の頃はどのような恋愛をしていたのでしょうか。また、今の作風に影響を与えたものはなんでしょうか。

新海監督「恋愛は普通でした(笑) 「『秒速5センチメートル』は新海さん自身の話なんじゃないの?」ってよく言われるんですけど、そんなことはないです(笑)。 原作・脚本・監督とクレジットされることが多いので、作品=新海さんみたいに結びつけられることが多いんですが、僕は作品のコアな部分を担当するので、そんな見られ方をされてしまうんだと思います。 作風ですが、何か具体的なこの出来事があってという訳ではないですね。強いて言えば、学生時代に何に一番救われていたかというと、フィクションに救われていたんです。中高校生時代って、今思うと大したことないこともかなり深刻じゃないですか。例えば好きな子に振り向いてもらえないとか、人間関係がうまくいかないというだけで。今なら「そんなの大丈夫だよ」って言えますけど、現役の中高生には響かないですよね。僕らの一年は一瞬のように感じられても、彼らの一年は永遠に近かったりします。そんな中で僕にとって一番癒してくれたのはフィクションだったんです。SF小説や、その頃の記憶や感覚が今の僕の作品に影響を与えていると思います。」

—これから作品をご覧になる方にメッセージをお願いします。

新海監督「今回は、今までの作品に比べて見やすいと思います。『秒速5センチメートル』のような作品はずっと大事に好きでいてくれる方がいる、その一方であまり興味をもたない方もいる作品と思います。しかし今回の作品はもう少し入口を広くしてたくさんの人に見やすい作品になっていると思いますが、表現されているものは人の死だったり今までの僕の作品で一貫しているテーマも追求していますし、最後にはちょっと違う場所に連れていってくれる作品だと思います。映画館を出た後に、アスナと一緒に長い旅をしてホッとしたとか、ちょっと世界の見方が変わったと思ってもらえたらうれしいです。是非、映画館でご覧になってください。」

—ありがとうございました。

『星を追う子ども』
5月7日、シネマサンシャイン池袋・新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
原作・脚本・監督:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:西村貴世
美術監督:丹治匠、音楽:天門
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
配給:メディアファクトリー、コミックス・ウェーブ・フィルム
公式サイト:http://www.hoshi-o-kodomo.jp/
(C)Makoto Shinkai/CMMMY

   

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