【映画レビュー】篠崎誠監督最新作「SHARING」試写会レビュー&篠崎監督単独インタビュー

SHARING

篠崎誠監督の最新作「SHARING」が2016年4月23日より東京・テアトル新宿で3週間限定公開される。

同作品は2014年10月のカナダ・バンクーバー国際映画祭、韓国・釜山国際映画祭での公開から約1年を経て日本での限定公開にたどり着くことが出来た非常に貴重な作品でもあり、3月11日をテーマにしている作品としても貴重なものと言える。

[文:畑 史進]

■あらすじ
2011年3月11日に起こった東日本大震災は津波とともに東京電力福島第一原発の爆発事故を引き起こし日本人だけでなく世界中の人々の心に大きな爪痕を残した。5年たった今でもそれ以前に考えもしなかった多くのことを考え、想像し日々を生きることとなった。社会心理学教授の瑛子は東日本大震災の予知夢を見た人を調査している傍ら、自身も震災の当日に亡くなった恋人を夢に見続けてきた。同じ大学の生徒である演劇科の薫は卒業公演のテーマに「311」を選び、震災の被害にあった人の役を演じるが、稽古に負われる日々の中、毎晩夢のなかで自分の演じる役の夢にうなされる・・・

■篠崎監督 舞台挨拶
「今回の作品は商業目的にした公開ではなく、研究目的とした作品です。本作品は2バージョン作っているもので本試写会で見ていただくのはロングバージョンです。長いほうがディレクターズカットというわけではなく、短い方も違う編集をしていまして、わざと違うテイクを使っています。編集のタイミングやエンディングも全く違うものとなっています。そちらと合わせて4月以降それぞれご鑑賞いただければと考えています。」

■「SHARING」ロングバージョン レビュー
映画の最初は「感覚の共有」という学術的実験の画面から入り、観衆に本作品のタイトル、テーマでもある「シェアリング」を知識がなくても視覚的・直感的に理解させてくれる。その後2人の主人公である「瑛子」「薫」は各々様々な不可解な減少に巻きこまれる。それらは震災の前後に多くの人々が体験した「ドッペルゲンガー」「デジャブ」そして「虚偽記憶」であり、震災というテーマを軸にしてこれらの「サイコホラー」的な要素をサブテーマとして展開していくのは非常に面白い。さらに薫が「東京」で震災を経験し、演じる舞台である「福島」で被害を受けていない自分がその役になりきることに違和感を覚え葛藤し、超常現象に巻き込まれる様はかなり挑戦的な表現のように感じて終始画面から目をそらすことが出来なかった。かと思えば「瑛子」が様々なドッペルゲンガーに自身の生活を振り回されていく過程はかつてのアメリカンホラー映画の手法が織り交ぜられていて、懐古的でも新鮮味があって非常に飽きが来ない展開だった。しかしこれらホラー要素がただのホラーとして終わるわけではなく、ちゃんと本来のテーマでもある「3.11」に焦点が当てられ、それらを「弄んではいない」事にも注目してほしい。それぞれが自身の心のなかに抱える闇を作品の中で回収しているので非常によく出来たシナリオで面白かった。

■篠崎監督 単独インタビュー

・今作品はサイコホラー的な側面がありつつ、3.11を題材にした映画で、一部からかなり厳しい意見も飛んで来ると思いますが、今作品の制作意図とは何でしょう?

篠崎監督 一言でお話するのは難しいですが、かつて『あれから』という映画を撮っていて、それも「3.11」の夜から始まる話で、東京と被災地と離れて暮らしている恋人がいて東京で暮らしている女性の一月を追った映画でした。しかしそれも「3.11」をテーマに映画を撮ると始まったわけではなく「映画美学校」の中で現実に起こった出来事を映画にしようと学生と一緒になって映画を作ることから始まりました。そこでは学生も自身の経験から色々とプロットを書いてもらいましたが、自分の中でピンとくるものがありませんでした。良い物もあったのですが、現実的に撮影すると難しかった。そこで自分自身2011年に一番心に残ったことは何だったんだろうと思い返してみると「3.11」だったんです。

僕の大学時代からの友人が宮城に帰っているときに被災してしまったのです。2,3日経ってから「全ては変わってしまいましたが、僕はここで生きています」というメールをくれましたが、それから連絡をがつかなくなってしまったのです。一月以上経ったとき知らない女性からメールが来て、そこには「精神的に少し追い込まれたこともあり宮城に帰っていたところへ地震がきて、少し心が揺れてしまい緊急入院することになった」とありました。やがて彼は退院してその女性と結婚して今は幸せに暮らしているのですが、そのことが自分の中で凄く大きな出来事として残っています。それから彼に話を聞きに行って、彼らのことをそのまま映画にするのではなく、被災地と東京で離れている恋人をテーマにして映画にしたいと思ったのです。

今回はまた別の形で「3.11」をテーマにした映画を撮りたいと思いました。僕自身は東京で暮らしているので被災地に行って直接撮るのではなく、東京で暮らしている自分の中にある不安やこの数年間の憤りを撮りたいなと。この映画が完成したのは2年前で、その時には「アンダー・ザ・コントロール」発言や今も尚、東京電力福島第一原発があのような状況なのに急速に忘れようとする風潮があってそれに対して自分自身の苛立ちもあり、それも含めて映画にして作る以上の強さが欲しいと思いました。それは何かと考えると「関東大震災」の直後に映画の中にも描かれているように「ドッペルゲンガー」「分身」といった小説が凄く流行ったり、「世界大恐慌」の直後などに世界情勢が不安定になると人が抱えている深層の中にあるものが噴き出してくる。それを考えていくうちにこういう作品になったのです。ですから、はじめから「3.11」をテーマにしようだとか、「サイコ・スリラー」なものにしようとかという風な意思でやっていたわけではなく、「地震」の後の自分の色々な思いを書いているうちにこの様な作品となりました。

・今作ロング・バージョン、ショート・バージョンの二本がありそれぞれ展開が違うということですが、これは二本合わせてみないと一つの作品として完成しないということでしょうか?

篠崎監督 いえ、二本立てではありません。ほとんど同じもので、試写会で見ていただいたのは2人の女性に謎の「彷徨い歩く男性」がいるバージョンで、もう一つのバージョンは2人の女性しか出てきません。

・それはただ単に2人の会話が長いということでしょうか?

篠崎監督 二人の有り様・ドラマというのをロング・バージョンより長めに撮っていて、ある種のホラー的な要素は出てきません。「ドッペルゲンガー」も出てこないです。1つのお話を元にそれぞれ違う展開・違うラストとなっています、3週間の上映の中で2本を交互に上映する形となっています。

『SHARING』
2016年4月23日よりテアトル新宿で3週間限定公開
監督:篠崎誠
製作:コムテッグ

犬と歩けば〜チロリとタムラ〜 [ 篠崎誠 ]

犬と歩けば〜チロリとタムラ〜 [ 篠崎誠 ]
価格:2,916円(税込、送料込)

コメント

タイトルとURLをコピーしました