映画レビュー 目覚めれば地中の棺桶!映画『リミット』

 




アメリカに妻と子供を残し、イラクでトラック運転手として働いている主人公ポール・コンロイ。ある日、何者かに襲撃され、目覚めると木製の棺に入れられて地中に埋められていました……ポケットの中にはジッポライター、バッテリーが切れそうな誰かの携帯電話、鉛筆、酒….といった微妙なものばかり。某キル・ビルの方のようにワンインチパンチの修行をしていれば、地中に埋められた棺桶の中から脱出可能なのですが、凡人にはそうはいきません。ポールさんは一般のトラック野郎の方です。手元にあるアイテムを駆使してここから脱出しなければなりません。
トラック野郎と聞くと、桃さん、ジョナサン、リンカーン・ホークと男くさい面々を想像しがちですが、ポール・コンロイを演じるのは最もセクシーな男性にも選ばれたことのあるライアン・レイノルズです。男くささのベクトルが違います。何てたって、実生活ではスカーレット・ヨハンソンの旦那です。なんと羨ましい。
この映画、最初から最後までカメラは箱の中から出ず、登場人物もライアン・レイノルズのみ。あとは電話越しに聞こえてくる様々な人物の”声”だけという非常にストイックな作りとなっております。果たしてこんなことで90分も持つのかとお思いのあなた![リミット]というタイトル通り、ライターのオイル、携帯電話のバッテリー、棺の中の酸素などなど、様々なリミットが刻一刻とノンストップで迫り続けるので息つく暇もございません。




ソウル・バス風のタイトルクレジットからも分かるように、ヒッチコックの映画、特に「救命艇」(1944)や「ロープ」(1948)をヒントにこの映画は作られました。
また、この映画のアイデアの元になった実際の事件があります。1968年、アメリカで誘拐された女子大生が箱に入れられて生き埋めにされ、身代金を要求されるという事件が起こりました。この事件は「ダーティ・ハリー」(1971)にも影響を与えました。ハリーは少女を助けることができませんでしたが、実際には女子大生は3日後に無事に救出され、犯人も逮捕されました。そして事件から3年後、その事件を被害者自ら書いたノンフィクション「83時間の夜 女子大生誘拐事件」が出版されます。それを映像化したTVムービー「83 Hours ‘Til Dawn」(1990)で生き埋めにされる女子大生を演じていたのが、何を隠そう、ポールさんの妻役で声だけの出演しているサマンサ・マシスなのです。
また、彼女は「今夜はトーク・ハード」(1990)で声だけの少年に恋する女の子を演じていました。そこが何とも面白いと言うか、まさにベストなキャスティングだと思います。
この事件を参考にしつつも、当時はなかった携帯電話がこの映画では重要な役割をしています。外の世界と携帯電話でしか繋がることができないポールさんは記憶を頼りに電話をかけますが、留守電だったり、オペレーターにタライ回しにされてなかなか助けを求めることができません。やっと、繋がってもその人物がどんな姿をしているのか、本当のことを言っているのか、嘘をついているのかわかりません。それは観客も同じでポールさんと一緒に電話の声の主と外の世界を想像しなければなりません。低予算を逆手に取ったこの手法がこの映画では上手く成功していると思います。
窮地に陥った時、誰に助けを求めよう・・・・そいつのケータイの番号覚えてたっけ・・・・あぁ、ワンインチパンチの修行しなきゃ・・・見終わった後、そんなことを考えざるを得ない、何とも恐ろしいスリラー映画です。
レビュアー:ミヤヂ

『リミット』
11月6日(土)より 渋谷シネセゾン他、全国公開
[公式サイト] http://limit.gaga.ne.jp/
(C)2009 Versus Entertainment S.L. All Rights Reserved.

コメント

タイトルとURLをコピーしました