第3回目『お葬式』

小宮山雄飛の東京DVDライフ 第3回目『お葬式』



文章/小宮山雄飛
画/黒木裕貴
今回は、伊丹十三監督の名作




 
『お葬式』


 


を紹介しましょう。


僕は伊丹十三作品が大好きで、映画はもちろん、エッセイ本などもそのほとんどを集めております。


なので、ちょっと伊丹風に文章を書いてみますとね。


今回はだネ、伊丹十三という、これすなわち稀代の才人についてだネ、恐れ多くも書いてみようと、一体どういうわけかそんな大それたことをふと思い立ったわけだネ。


書くといってもだネ、最近ではこう実際に筆のひとつも持つわけでなく、パーソナルコンピューターなるものでネ、カチカチと打ち込んで行くことになるわけなんだからいやになってしまうではないか。ネ?


はい、なんとか一生懸命、伊丹調を真似してみましたが、「全然違うぞ!」とマニアの方に怒られそうなので、このくらいでやめておきましょう。


さてさて、なぜ今さら『お葬式』なのかと言いますと、アカデミー賞を獲った『おくりびと』の脚本家である小山薫堂さんが、『おくりびと』の脚本を作る際に参考にしたのが『お葬式』だった、という話を読んで、久しぶりに見なおしてみたという次第なのです。


僕も『おくりびと』を観終わった後にすぐ「これは伊丹十三監督へのある種オマージュも入ってるのかな?」と思ったのですが、作品でいうならどちらかというと『タンポポ』の影響を感じたんですね。やはり薫堂さんといえば、これまた稀代のグルメですから。


なので後日、小山薫堂さん本人に会った時に「あれってお葬式というよりも、タンポポじゃないですか?」と聞いてみたら、「たしかに、設定という意味ではお葬式に近いけど、純粋に一番好きな映画でいえばタンポポだね」と仰ってました。


どちらにしても、薫堂さん自身も伊丹作品の大ファンで、どの作品ということでもなく根底に伊丹さんのマインドというものが流れてるんでしょうネ。


というわけで『お葬式』なのですが、これは伊丹十三さんの映画監督デビュー作な訳で、この作品で日本アカデミー賞を始め30以上の賞を獲ったというのも、薫堂さんが初めて書いた映画脚本でアカデミー賞など数多くの賞を獲ったのにカブるところがあります。


『おくりびと』と『お葬式』の共通点を挙げて行こうと思えば色々とあるのですが、やはり観る人にとって一番分かりやすい共通点といえば、山崎努さんですよね。
『お葬式』では主人公の遺族役をつとめた山崎さんが、『おくりびと』では葬儀会社の社長というのも、偶然かもしれませんが単に共通点というよりも、どこかシャレが効いてて面白い。


僕なんかは山崎さんが何かを食べてる演技を観るだけで、反射的に『タンポポ』のゴローさんを思い浮かべてしまう、そのくらい伊丹作品において山崎努さんはある種アイコン的な存在なんですね。


そんな山崎努さんのナレーションで『お葬式』は始まるのですが、そのナレーションだけで既に、伊丹ワールドに引き込まれるのです。


ナレーションはこんな具合に始まります。


**


これは伊豆のカモメ温泉にある私の家だ。


かつて私はここに住んでいたが、二年ばかり前、東京に移ったため、今では別荘になってしまった。


現在、女房の両親を三河から呼んで、隠居所として使ってもらっている


今、坂の上から降りてくるのが女房の父親だ。


彼は東京から帰ってきたところだ。


彼は今機嫌が良い。


東京の大きな病院で、年に一度の定期検診を受け どこにも異常がないと知らされたからである


ロースハムとアヴォカードと鰻


日頃極端に倹約家であった夫の、この突然の浪費は、彼の妻を驚かせるのに充分であった


**


伊丹さんのエッセイを読んだ事のある人には、このナレーションの言葉だけで、これが伊丹十三の映画だということを分からせるのに充分である、とこうなる訳です。


声は山崎努さんですが、明らかに伊丹さんが書いている姿が目に見えるのです。


人の死がテーマの映画で、冒頭からいきなり


「ロースハムとアヴォカードと鰻」


と、これがまさに伊丹ワールドな訳です。


そして、映画のラストのセリフとなる、喪主役の菅井きんさんの挨拶、ここが実に感動的なのですが、最初の山崎さんのナレーションと最後の菅井さんのセリフで全部成立してるんですよね。


もちろん中にもギッシリと伊丹ワールドが詰まってる訳ですが、映画の冒頭とラストシーンだけで充分全てを語らせてる。


DVDになって、チャプターごとに頭出しできるようになった今だからこそはっきり分かるのですが、ほんとに冒頭だけ、ラストシーンだけを切り取っても、しっかり映画全体を知らしめるに充分にできてる。さらにそれぞれのチャプターに短編小説のような面白いエピソードが散りばめられていて、どこを切り取っても伊丹風なんですよ。そう考えると、伊丹十三監督はすでに感覚的にDVD時代にいたのかもしれません。


DVDといえば、特典映像として付いてる<予告編>がまたとにかく秀逸なので、その昔ビデオやTVで観たという人も、ぜひともDVDで見直していただきたい。


若き三遊亭小遊三とシャーリー富岡(マイケル富岡のお姉さん、僕の子供時代のアイドル!)の二人が、いかにも80年代のDJ番組風に、軽快というよりも軽薄に近いノリで、とにかく軽~く軽~く映画の内容を紹介していく。


普通だったら、この手の映画はちょっとした感動巨編みたいな予告編にするでしょ、なにしろテーマが人の『死』ですから。それを全く逆に、わざと軽~い若者映画みたいに(『私をスキーに連れてって』や『彼女が水着にきがえたら』でも紹介するかのように)紹介してる訳です。


このユーモア感覚も時代を超えた今観てこそ、すごいセンスを感じます。


という訳で『おくりびと』が大きな話題となってる今こそ、一緒に『お葬式』も見比べてみると、色々と面白い発見があると思います、ネ。




小宮山雄飛(ホフディラン)

ミュージシャン
1973年8月14日生まれ
1996 年「スマイル」でホフディランのVo&Keyとしてデビュー。「遠距離恋愛は続く」「恋はいつも幻のように」「欲望」「極楽はどこだ」など、ヒッ ト曲を多発し、FUJI ROCK FESTIVALへの参加、日本武道館でのワンマンライブを成功させるなど、ライブでも活躍。日本のポップシーンにおいて根強い人気を誇る。デビュー以 来、シングル19枚、アルバム9枚(ベスト盤含む)をリリースしている。
絶賛発売中のニューアルバム『ブランニューピース』(DVD付き初回限定盤)に収録されている『恋人たち』『ニューピース』のPVでは、自ら監督を 務めるなど、多才な一面を持つ。2009年7月3日には、渋谷C.C.Lemonホールにて、デビュー13周年記念ライブを行い大成功!その模様を収録し たライブDVD『13年の金曜日』においても監督を務め、11月4日にライブCDとともに同時リリース、絶賛発売中! 
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZOへの出演も決定!
2010年7月3日(土)
ホフディラン ワンマンライブ
『14年の土曜日』
会場:SHIBUYA-AX
open 18:00 / start 19:00
チケット料金:3980円(ドリンク無し!)
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ゲスト:ゆってぃ / and more…
問い合わせ:HOT STUFF 03-5720-9999
5/9からの一般発売に先駆けて、HP先行予約を受け付けます!
受付期間   4月19日(月) 12:00 ~ 5月5日(水) 18:00      
  ※専用URL http://eplus.jp/hoff-hp2/   
・ホフディラン HP http://hoff.jp/
・軟式ブログ http://blog.excite.co.jp/yuhi-blog/
・こむぞう http://comzo.cocolog-nifty.com/
・シコウヒンTV http://www.andsmile.tv/
・SHOOT UP http://www.shootup.net/

黒木裕貴(クロキユタカ)
東京生まれのイラストレーター。
CDジャケットや書籍・雑誌、アパレル等で幅広く活躍中。
また、影絵やコマ撮り作品をつくる映像作家としての顔も持つ。
official website http://www.kurokiyutaka.com/
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