緊急企画!ホラーに明日はあるか?ホラー映画 ニュージェネレーション インタビュー Vol2

人気TVドラマ、コミックの映画化。人気俳優、タレントの起用など。安定したヒットとリスクヘッジという命題を抱えて製作される日本映画。それはそれで正しいと思う一方、エンタジャムは一抹の不安を感じます。


ホラー映画に明日はあるのか?と。2009年12月。残酷・ホラー。スプラッターという、アグレッシブなキワードの下。ひっそりと、しかし熱い思いで開催された自主ホラー映画祭「学生残酷映画祭」。上映された数多くの作品の中から、これからのホラー映画界、もしかしたら日本映画界を背負うかもしれないインディー映画監督にインタビュー。唐突な企画で驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、ホラー映画というジャンルで一生懸命面白い物を作ろうとしているクリエイターたちがいることを感じていただけたら幸いです。
学生残酷映画祭2009 審査員特別賞『プッシー・キャット』長尾 武奈監督インタビュー
 

長尾 武奈監督プロフィール
1986年生まれ、京都在住の大学院生。高校生の頃よりクレイアニメ制作を開始。代表作『チェーンソー・メイド』は現在YouTube再生数200万回。昨年6月にはアヌシー映画祭の短編部門で上映された。現在新作『チェーンソー・メイド外伝(仮)』撮影中。今年DVDで発売予定。好きなものはホラー映画とアニメとメタル。
[ていえぬシアター]
 
 
 インタビューの前に学生残酷映画祭2009審査員特別賞『プッシーキャット』をご覧ください。
 
編集部)まずクレイアニメーションを撮り始めたきっかけですが、ホームページで高校生の時に試しに撮ってそこから始まったと聞きましたけど。
(長尾)美術の先生がカメラを持ってきて、試しに遊んでみたらという感じで、カメラを借りて試しに家で撮ってみたのが最初です。それが最初の『BATTLE OF CLAY』っていう作品です。それで勢いで『BATTLE OF CLAY2』を一気に撮って。
(編)You tubeで、監督の過去の作品を観ましたが『BATTLE OF CLAY』の頃から、既にホラーテイストが滲みでていますね。
 
(長尾)そうですね(笑)
(編)二つのキャラクターがもつれあって、転がっていく時に肉片なのか血なのか、床にこびりついていくという(笑)作品を観ていて、なんか手触りが変な作品だなと。
(長尾)あれは、今思うと何のつもりだったのか(笑)覚えていないんですが。あんまりホラーという意識はなかったんですけど、もしかしたら無意識にあったのかもしれません(笑)カワイイつもりで作っ
ていたんですが
(編)その次が『BLOODY NIGHT』ですか?
 
長尾)はい。今度は自分の好きなホラーものでやってみようと(笑)大学に入って時間が出来たんで、久しぶりに高校の時のコマ撮りをやろうかなと思いまして。
(編)もともとホラー映画は結構見ていたんですよね?
(長尾)中学のころから根っからのホラーファンだったので。その頃は、まだ近所に怪しいビデオレンタル店があって、変なホラー映画をいっぱい観ることができた時期で。ホラー映画のガイド本なんかを参考にしながら、片っ端から借りて観るという感じでしたね。そこで『悪魔のいけにえ』なんかも古いVHSで観ましたね。
(編)大学に入ってから撮った『BLOODY NIGHT』から、キャラクターも確立していますよね。女の子もいて、人食いの怪物もいて(笑)あの作品からストーリーや人形もしっかり作りこんでいますね。この作品から世界観がかなり明確になっていますが。
(長尾)あれはユーリー・ノルシュテインの『霧の中のハリネズミ』という作品がありまして、一応あれを僕バージョンで作ってみたのが『BLOODY NIGHT』で。暗闇で霧の中でネズミがある場所に行かなくてちゃいけなくて、霧の中を歩いていると大きな怪物みたいな影が一瞬見えたり。振り返ったら何もいない。みたいな。ああいう、何かいるけどなんだろうという。という感じをやろうと(笑)あとは、あまりイメージした作品というのはなくて、あとはだんだん自分が考えるホラー的なものをどんどん付け足していった感じですね。ひたすら怪物に追いかけられるシーンは『悪魔にいけにえ』を画作りの参考にしました。あの映画も終盤で暗闇の中を女の子がひたすら走っている後ろをレザーフェイスが追いかけていく。ひたすら追いかけられる恐怖を描きたかったんです。つまり『霧の中のハリネズミ』+『悪魔のいけにえ』という感じです。
(編)どうやってクレイアニメの技術を学んだんですか?
(長尾)独学ですね。洋書とかを読んで手探りで勉強しました
(編)5分くらいの作品で、どのくらいの期間で撮影しているんですか?
(長尾)だいたい3カ月くらいです。『プッシー・キャット』は、授業が忙しくなってきたので半年くらいかかりました。
(編)作品を作る時のモチベーションは何ですか?
(長尾)とにかく”義務感”ですね。とにかく作って発表したい。今までさんざん映画を観てきたので、溜めこみ過ぎたので、とにかく外に吐き出したい。作ってみせたい。というのがモチベーションですね。ホラーを映画を観て、「こんなスゲーことをやっているんだ」と思ったりするとテンションがあがります(笑)でも、アイディアを考えるのはツライです。話をどうやって面白くするか。作り始めるとルーチンワークで進んでいくので逆に楽だったり。とにかく、アイディアを練り上げるのが、授業にも出ないといけないですし(笑)
(編)その後、2本はさんで『BLOODY DATE 血みどろデート』ですね。これはYou tubeで不適切な動画になってましたね(笑)『牛乳王子』の内藤監督もそうでしたけど。批判の書き込みとかはありますか?
(長尾)感想で「殺人は楽しいことではありません」とか。でも、そういうリアクションが来たら来たで嬉しいですね。それだけ危険扱いされているということですから。ただ、アニメーションの映画祭で”公序
良俗”に反する作品として失格になった時はつらかったですね。
(編)『BLOODY DATE 血みどろデート』はキャラクターが凄く妖しいて魅力的ですね。どういうイメージで作り始めたんですか?
 
(長尾)ゴスというカルチャーが好きなんで(笑)そのイメージで殺人一家をデザインしました。『アダムスファミリー』的な、白塗りで唇が黒いという。
(編)片目の女の子が可愛かったですね。
(長尾)あのキャラクターが一番最初に思いついたものです。最初の設定では彼女は魔女の娘で、黒魔術を使う女の子というイメージで作ったんですけど、カップルの彼氏の頭をかち割るカットを撮ったくらいから、一気に猟奇的ホラーになってしまいました(笑)
(編)最後に出てくるあれヤギですか?
(長尾)あれはヤギです(笑)何か悪魔の象徴のような。あのへんは『デモンズ3』とかを思い浮かべながら(笑)あの一家は悪魔的なものとも結びついていて、その長はヤギで、つまりお父さんがヤギというイメージで(笑)
(編)『血みどろデート』が一番直接的で過激ですよね。妙にハッピーな感じで始まって唐突に彼氏の頭がハンマーで頭がつぶされるという(笑)
(長尾)初めのシーンは極端に”落差”をつけようと思って演出しました。デビッド・リンチの『ブルー・ベルベット』という映画があって、平和な50年代のアメリカの裏にドロドロしたものがあるという構図があるんですが、それをもっと極端にしようと。お花畑でデートしてたら、いきなり頭かち割られて、一気に猟奇的な世界に突き落とされるというか。最初に殺人一家のキャラクターを思いついたんで、あのキャラクター達を使って何かをやろうと思って、じゃあ、カップルが襲われるという一番ホラー的な風景を持ってきて。とにかく殺人一家が主人公の映画ですね。あの作品は一番”お約束”的なものを盛り込めたので楽しいかったですね。
(編)長尾さんのホームページでも書いていましたが『悪魔のいけにえ』の匂いが濃厚ですよね。
(長尾)基本はそれです(笑)助けを求めに行ったら、実はそこが殺人鬼の家だった。という。まあ、そのまんまですね。『血みどろデート』は学祭で上映した時は、本当にお客さんがドン引きして(笑)何だこれ?という感じで、場内がドヨーンとして笑いも起きないという(笑)あれがあって、ホラー映画でも、もう少しハッピーなエンディングで盛り上がるようなものもいいかなと思って、その反動で『チェーンソー・メイド』を作ったんです。『血みどろデート』がホラー映画でいう”陰”とすれば、『チェーンソー・メイド』は”陽”の部分ですね。
 
(編)『チェーンソー・メイド』では、奥さんが自分の内臓を口から吐き出すシーン良かったですね(笑)
(長尾)あれはいろんな方に気に入ってもらっていて。あれはルチオ・フルチの『地獄の門』の内臓吐きをやろうとしたんです(笑)
(編)あと、旦那がコーヒーを飲むカット(笑)
(長尾)あれは最大の笑いのポイントです。あれはその場の思いつきで考えて、実際にそういう場面に人があったら、どう行動するか?というのを考えた結果があのコーヒーです。多分、目の前にコーヒーがあったら飲むだろうと(笑)あくまでも”冷静に考えた結果”です。本人たちは必死なんだけれども、傍から見ると、やっていることがちょっと変に映ってしまう。そのほうが面白いかなと。変に笑わせようと思ってはいないです。
(編)人形の口とセリフがちゃんとシンクロしていて、特に「They’re coming」がよかったですね。
(長尾)セリフとのシンクロは顎の部分を付け替えて、アードマンの本とかを見て研究しました。あと、単純にセリフと口がちゃんと合っていたほうがカッコいいなと。『血みどろデート』では、わざと長セリフを言わせて英語字幕と口が合うようにしたり
『チェーンソー・メイド』はフランスのアヌシー映画祭で上映されましたよね?どうやって応募したんですか?
(長尾)あれはオープンアートという、作家の作品を海外に紹介してくれる会社がありまして、そこを通じてアヌシー映画祭に応募してもらって。という感じです。
(編)現地の方の反応はどうでした?
(長尾)日本とは全然違いますね(笑)あれは衝撃でした。日本ではリアクションはせいぜい苦笑くらいなんですが、向こうではドカーンという反応があって(笑)Nooo! Oh my God!みたいな。爆笑です。あと、私と同じようにクレイアニメで、もっとエグイものを撮っている監督さんがいたり。色んな発見がありましたね。
(編)それで次が『プッシーキャット』ですね?
(長尾)そうですね。ホラーは『チェーンソー・メイド』でやり尽くした感があって。今度はホラーとは違う一般に人にも見れる作品をやってみようと思って『プッシー・キャット』を作りました。あれも一般向けなのか?という疑問もありますけど(笑)あの作品から、一気に評価も上がってきて。やはり、スプラッタ系に行くしかないのかな、と思っています。
(編)『プッシーキャット』を観て思ったんですが、登場人物の表情や演技、特に変質者のブタの目の演技がすごくいいですね
(長尾)基本的にセリフで説明したくないので、表情や演技に重きを置いています。それだけでストーリーを語れればいいなと。やはりアニメーションの面白さは動きだと思うので、セリフなしで人形を動かした方作る方も面白いですし、多分観る方もシンプルで面白がってくれると。私は人形は自分の中では男優さん、女優さんだと思っていて、彼らが演技をしているというイメージです。あと、『プッシー・キャット』では、もっと複雑な感情の動きをやってみたいなというものがありました。変質者の演技というか。
(編)ブタのイメージは白人の変態ですか?普段はろくな人生を送っていなさそうな感じの。
(長尾)そう、そうですね。白人の変態。ちょっと金持ちの(笑)
(編)あのブタはいいですよね(笑)あまり説明していないのに、彼の人生が見えるというか。
(長尾)あのブタさんには、一番自分を投影してしまっていますね(笑)あのブタさんには、社会的にはどうしようもない変態なんだけど、観客としては応援したくなるというか。変態が主人公というのをやりたかったですね。勧善懲悪ではなくて。変態を皆が応援しているという構図があったら面白いなと。変態にさらに変態がぶつかったらどう戦うかみたいな(笑)
(編)観終わってから冷静になると、やっぱりブタは応援できないですけど(笑)
(長尾)そうですね(笑)
(編)タランティーノ作品は好きなんですか?ラス・メイヤーとかジョン・ウォーターズとか観ているんですか?
(長尾)ラスメイヤーはないですけど。テレンス・スタンプの『コレクター』は参考にしました。あと、一番のベースにあるのはタランティーノの『デス・プルーフ』ですね。これを観て、こういう世界があるんだというのを知って。私は”ていえぬシアター”という映画レーベルを勝手に立ちあげているんですが、自分の中でこれは”映画興行”だと思っていて、『チェーンソー・メイド』の次に何を上映するのがいいのかと考えて、今の自分に足りない要素は”エロ”と”監禁”だろうと(爆笑)それで自分が考える低予算の暴力映画というものをイメージして『プッシー・キャット』を作りました
(編)今制作中の『チェーンソー・メイド外伝』ですが、どういった内容になりますか?
(長尾)前作の『チェーンソー・メイド』のメイドさんのおばあちゃんの話で、メイドの祖母もメイドだったと(笑)で、『チェーンソー・メイド』のメイドさんは、代々メイドさんの家系でゾンビ騒動は昔にもあったという。今度は、ご主人さまがお嬢さんになるんですよ。ゴスロリの恰好をした(笑)そのお嬢さんを助けるためにメイドさんが戦うというストーリーです。あと、前の『チェーンソー・メイド』で自分の中で不満だったのはゾンビが人を食べるシーンがないという部分だったので、今回はちゃんと内臓をつかみながら食べるというシーンを撮りたいですね(笑)
(編)今後、チャンスがあれば長編を作りたいとかあるんですか?
(長尾)ありますね。新作のアイディアを練っていたら、どんどん壮大に長くなっていくんですよ(笑)もし、時間とお金をいただけるなら、やってみたいですね。今自分が思っているのは、ゾンビはゾンビだから切り刻んでOKみたいな、ちょっとしたエクスキューズになっている部分があって。その結果ショックが和らいでいる面もあるのかなと。だから、もし『チェーンソー・メイド外伝』の次に撮るときは『血みどろデート』の頃の雰囲気に戻りたいですね(笑)
(編)分かりました。新作が完成したら是非教えてください。今日はありがとうございました

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