【清水崇最新作】3Dドーム映像作品『9次元から来た男』先行試写会レポート&大栗博司教授独占インタビュー!

9次元から来た男

超弦理論の研究において最前線に立っているカリフォルニア工科大学の大栗博司教授と、「呪怨」「魔女の宅急便」で知られる映画監督の清水崇がタッグを組んで制作した3Dドーム映像作品『9次元からきた男』が日本科学未来館で2016年4月20日(水)から公開される。

公開に先立ち、1月20日、本作品のレクチャー付きプレミア先行試写会が行われた。大栗博司教授が本イベントのために緊急帰国され、本作品への力の入れようをうかがい知ることができた。

本作品は自分とは何かという小さな疑問から、次第に宇宙創世のルーツとは何か?と変遷していき、次第に物質を構成する最小の粒子である原子、電子よりも遥かに小さい素粒子のミクロの世界、宇宙のマクロの世界、これら2つの世界を表す矛盾した理論を統一する物理学究極の目標「万物の理論」を追い求める理論物理学者たちと、最も有力な仮説「超弦理論」をテーマとした科学アドベンチャーである。

ミクロ、マクロの世界そして「超弦理論」これらの映像化を大栗教授の監修のもと、清水崇監督、ビジュアル・ディレクター山本信一氏主導の製作によって、素粒子・ニュートリノ・ビッグス粒子をCG化し、12億個もの膨大なパーティクル数で見えない世界を可視化させ、実際に未来館での撮影を決行し、それを活かした体感的かつトラウマ体験をもたらす、「3Dドーム作品」となっている。

作品を鑑賞するにあたって3Dメガネが渡されるが、メガネ着用者にも十分配慮された大きめのサイズで製作されているので非常に快適な鑑賞が楽しめる。

【ストーリー】
とあるカフェの中に紛れ込んでいる、何かが違う男。その名はT.o.E.(トーエ)。男は科学者たちに追われている。あと一歩で捕まりそうになったそのとき、男はおもむろに姿を変えた。そして、含みのある問いかけと共に私たちを不可思議な旅へと誘う。とてつもなく小さなミクロの空間からマクロのスケール、そして現在からはるか昔、宇宙誕生の瞬間まで、変幻自在に時空を移動してゆく男。導かれるままについて行ったその先には、私たちの常識を覆すような情景が広がっていた・・・。T.o.E.とはいったい何者なのか?科学者たちは、T.o.E.をつかまえることができるのか――?

本作品の簡単な感想を述べると、従来のようなプラネタリウム向け既存アニメのコラボレーション作品とは異なり、映画的演出が所々に垣間見え、物理学の専門的な部分も説明的でなくストーリーに練りこまれて丁寧に展開される。尚且つ3Dドームシアター作品としてかなりこだわって製作されており1点を集中してみる映像ではなく、鑑賞者が自主的に作品内を冒険できる一種のゲームとして仕上がっているので、作品の終わりまで集中できる作品になっている。あまり難しい作品として身構えること無く、気楽に見ていただければ幸いである。物理学の入門としてもうってつけだろう。

本作品の試写会後には、大栗博司教授からの本作品にまつわる物理学講義が行われた。ビッグバンから相対性理論と宇宙の関連性という難しい内容を一般人に向け、噛み砕かれた非常にわかりやすい説明で思わず筆者も聞き入ってしまうほどの内容だった。

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その後、大栗教授、清水監督、山本氏による作品製作秘話、トークショー&質疑応答が行われた。

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左から大栗博司教授、清水崇監督、山本信一氏

■清水監督は「呪怨」等のホラー映画のイメージですが今作の製作はいかがでしたか?

清水監督:最初相談された時は戸惑いました(笑)全く科学に詳しいわけでもない僕が大栗教授のレクチャーを聞きながら、数式でしか表せない世界をどうやって表現するかということに挑戦することは非常に楽しめましたしやりがいのあるお仕事でした。

■タイトルにもありますが、なぜ「男」を登場させたのでしょうか?

清水監督:「万物の理論」をテーマにした企画とお聞きして、どうしても科学の教科書的なものにしたくありませんでした。私の学生の頃「細胞はどうして細胞のことを考えているのだろう?」と思ったのでそのことを大栗教授にお話したら「その面白い発想でお願いします」ということで企画がスタートしました。よく科学的な映像にある、かわいいマスコットキャラクターが延々とナビゲートしていく、そういうものには絶対にしたくありませんでした。それから勉強していくうちに「万物の理論」「超弦理論」という先生がおっしゃる「物質の根源は‘ひも’かもしれない」という部分を擬人化してはどうだろうということでT.o.E(トーエ)を誕生させました。

■男が紐としてほどけていく、映像的な想像力で非常に感心しました

清水監督:子供の発想の僕に、大人の先生が付き合っていただけた感じがして楽しかったです。男の外見に関しては「アトランティスのこころ」や「ハンニバル」に出てくるアンソニー・ホプキンスの様な風貌をイメージしました。表現に関して子供が泣き出すようじゃ困ると心配されて、今日は実験的に僕の子供に観せてみたんですが、何事もなかったので親子で観ても大丈夫です!(笑)

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清水監督:9次元といきなり言われてもピンと来ないと思われるので、段階的に1次元、2次元、3次元まで観てもらいました。その中で特徴的なのは紙の上で描かれているアニメーションの(2次元)T.o.Eが、ペラペラの紙から3次元に出しました。

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■大栗教授は企画の段階から関わられたのですか?

大栗教授:今回の映像作品は素粒子の話もあれば、量子力学の話もあれば、ビッグバンもあり、宇宙巻き戻しの話もあり、インフレーションの話もあります。それらを30分でご紹介して、未来館の方でも「メガスター(プラネタリウム)」を満足してもらいたい。そこで物語の中ほどで一度3Dメガネを外していただいて、星空を静かに眺めて、各々宇宙というものを考えてほしい、ゆっくりとした時間を提供して、実はミクロの世界、マクロの世界、重力の法則が違っているようで繋がっているという要の部分をご提案して、それは実現していただきました。

■撮影手法について

清水監督:実際にドーム用の180度の広角レンズは普通の映画の撮影では使わないものでどういった仕上がりになるのは、スタッフ全員想像がつかなかったので手探り状態での撮影でした。

山本氏:相当アウェーのシチュエーションで、3Dで全周との映像で。絵を描くことに例えるならグローブを握ったまま絵を書いているような気分でした。

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■劇中出てくる数式にいて

清水監督:僕の方からプロデューサーの方に相談して、せっかくだから大栗先生の手書きの数式をお願いしたらどうだろうと聞いたらそれが採用されました。謎を秘めるために素数に限定されたり、数式の順番から出てくる位置まで先生なりのこだわりがとても強かったのです。(笑)そのために山本さんが一番苦労をするということに・・・

■17種類の素粒子の演出については?

清水監督:あれは綺麗な模様だけで終わっては終わっていないんですよ。全部意味があって・・・

山本氏:そこに全て意味があるように、17種類全ての素粒子の動き、特性を作ろうじゃないかと考えました。結局10種類で終わってしまいましたが。

清水監督:色々考えてもらったのですが、多すぎますと僕が断ってしまいました。

山本氏:非常に科学コンテンツによくある説明カットになるんじゃないかと監督が危惧して、信頼を勝ち取るのに時間がかかりました。

■電子の軌道も実に良く出来ていますね。

山本氏:僕はこの仕事を始めるまで電子というのは一定の軌道を延々とぐるぐる廻るものだと思っていましたが、もっと不確定で不確率的に現れるものだと知って、徹底的に再現してやろうと思いました。

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■オキュラスリフトで映像確認
清水監督:今回はドーム作品ということで、従来のように四角いスクリーンで映像確認は意味が無いので、かといってゆりかもめで未来館に来てドームを使って・・・ということも出来ないのでオキュラスリフトというものを使用して映像確認をしました。

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【質疑応答】

■25分という短編であっという間に終わってしまって、描ききれなかったシーンとかはあったんでしょうか。

大栗教授:確かに超弦理論、そして素粒子の標準模型、これらを映像化しようと思ったらいくらでもお話はあるわけで、3時間の映像番組にすることも出来ますが、未来館の映像としてはこれが最適ではないかと思います。

清水監督:30分の作品と聞いて、ミクロの世界、マクロの世界、量子力学、重力の法則そしてまだ仮説の超弦理論を自分なりに先生の本を読んで勉強してどうやって30分に納めればいいんだろうと考えたんですが、奇跡的にも我ながらよく30分で収めたなぁと考えています。

■研究が進んだ時、映像も新しい物になったり、内容のバージョンアップ等が必要になるのではないでしょうか?

大栗教授:科学の発見というのは、過去の科学の法則が否定されるのではなく、新しく上書きされていくのです。これからも新しい発見があって、3分4分とどんどん追加すればそれはアップデートされた映像になります。そういった30分でも大きく追加されるような新しい発見が今後どんどん出てくると嬉しいですね。

【大栗教授独占インタビュー】

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■今作品のような科学への入り口というものは未来館さんのようにどんどん展開されていくべきだとは思うんですが、こういった作品の続編、または別方向からの切り口、別の物理学における理論の紹介というのはありますか?

大栗教授:お声があればいくらでもご協力したいと思います。今作品は全貌を30分の枠で収めたものであって、ある一部分を切り取ってそこを深くご説明するとそこには美しい世界が広がっているのです。今作品はあらすじのようなもので、この一部を更に深くする映像作品もあってもいいなと思います。例えば素粒子の標準模型にしてもそれから宇宙の進化について深くする作品もあってもいいと思います。私の本でも書いてあるんですが、数学の理解をすすめるような映像作品もあってもいいと思います。

■大栗先生がこの世界に目覚めたきっかけというものは何だったでしょうか?

大栗教授:私が子供の頃、理科の先生が非常に良い先生で、よく実験をさせてもらいました。理科の勉強というのは、何度同じことをしても、同じ結果が再現できる。これが凄いと。子供の世界は不合理な事がいっぱいあって、実は自然界の法則は合理的なものであると。それが素晴らしいなと。別の本でも書いたことがあるのですが、自分で地球の長さを図ったことがあるという感激的な事件がありまして、ヘラトステネスがギリシャの時代にやったことの焼き直しですが、親に連れられて展望レストランでご飯を食べていた時に地平線が見えたと。あそこまでどのくらいあるんだろう?と思ったのです。そこで考えたのが、地球の直径とビルの高さです。ビルの高さは大体40Mだと知っていたのです。ウルトラマンが大体50M位なので。そうすると距離がわかると学校で習っていたので。ところが地球の大きさがわからない。するとたまたま見えていた地平線のところが、僕の父の故郷だったので「お父さんあそこまでどのくらい?」と聞いてみたら20km位だと。そこで計算してみると地球の大きさがわかって、おぉ!と「考えるだけでそんなことがわかるのか」と感動したのです。そこで思考の力、観測あってのものですが、自然のことが分かってくるというのは素晴らしいことだと小学生の時に感じたのです。

■先生は宇宙を舞台にしたアニメとか映画をご覧になったことはありますか?

大栗教授:SFは好きでしたけどね。アシモフとかです。アシモフは啓蒙書とか結構書いてていいものを書いてますよね、僕はそこを入り口にして普通の学校では習わない理科を勉強したり、僕は岐阜の田舎の出身なので、今日のような一般講演を聞きに行く機会もなかったんです、そういった形で最新の科学に興味ができてきたのです。

[取材:畑 史進]

『9次元から来た男』
2016年4月20日(水)公開
(2016年/30分/3D/4Kドームマスター/7.1chサラウンド)
監修:大栗博司
監督:清水崇
ビジュアル・ディレクター:山本信一
出演:ジェームス サザーランド、ヨシダ朝、橘ろーざ、岡安旅人
声の出演:小山力也
脚本:井内雅倫
撮影:福本淳
照明:市川徳充
編集:金山慶成
音楽:石田多朗
宇宙進化シミュレーション映像:武田隆顕 
データ提供:The Illustris Collaboration、CERN〔欧州原子核研究機構〕
製作・CG/VFX:オムニバス・ジャパン
企画・製作・著作:日本科学未来館

監修: 大栗博司
カリフォルニア工科大学 教授 ・理論物理学研究所 所長/東京大学 カブリ数物連携宇宙研究機構 主任研究員。京都大学卒業、東京大学理学博士(素粒子論専攻)。超弦理論の研究に対し受賞多数。第一線の研究者であると同時に、理論物理学の魅力を一般向けに伝えるユニークな解説手法にはファンが多く、著書「重力とは何か」(幻冬舎)は15万部を超えるベストセラーに。これまで出版された解説書の累計発行部数は25万部を超える。「大栗先生の超弦理論入門 -九次元世界にあった究極の理論」(講談社ブルーバックス)で講談社科学出版賞を受賞。

監督: 清水崇
大学で演劇を専攻し、脚本家・石堂淑朗氏に師事。小道具、助監督を経て、3分間の自作映像を機に黒沢清・高橋洋監督の推薦を受け、監督デビュー。ホラー映画『呪怨』がヒット。サム・ライミ監督プロデュースのもと、USリメイク版でハリウッド・デビュー、全米ナンバー1を記録。『戦慄迷宮3D』、『ラビット・ホラー3D』など、3D映画も多く手がけ、実験精神あふれる演出で観客を魅了し続けている。シャイカー所属。

日本科学未来館:http://www.miraikan.jst.go.jp/

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