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更新 2008年05月22日

ホラー秘宝

NY発 ジョージ・A・ロメロ監督最新作『Diary of the Dead』レポート!

今年2月にNYで行われたティーチ・イン付き試写会のレポート、蔵出しです!

 ホラー映画の巨匠ジョージ・A・ロメロ。1968年の『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』以降、ゾンビ映画を中心に圧倒的な支持を得ている貴重なホラー映画監督である。2005年にヒーローゾンビを誕生させた『ランド・オブ・ザ・デッド』から3年、彼は新たなゾンビ映画を制作した。

 2007年のトロント映画祭でプレミア上映され、人々を驚愕させたその映画のタイトルは『GEORGE A. ROMERO'S DIARY OF THE DEAD』。『ランド・オブ・ザ・デッド』等と並び、「デッド・シリーズ」と称されている。

 その『DIARY OF THE DEAD』が、この程ニューヨークで披露された。この特別試写は2月6日7時より、場所はタイムズスクエアにある25個のシアターが入っている巨大なシネコンで行われた。これはAmerican Museum of the Moving Imageというニューヨークにある博物館が主催するもので、幸運な事に監督によるティーチ・インも用意されていたのだ。

 会場は広過ぎず、狭過ぎずの丁度良い大きさ、そして満席。やはり圧倒的に多いのは男性の姿。特にオタクの姿が目立つ。ロックバンドのTシャツにロックバンドのキャップ。まさにコテコテスタイルのアメリカのオタク達。主催側の博物館のアシスタントキュレーターの女性がマイクを持ってスクリーンの前に立つやいなや会場は大歓声に包まれた。監督や俳優達ならまだしも、彼女にまで大歓声が起こり、この『DIARY OF THE DEAD』がどれだけ期待が大きいか肌で感じる事が出来た。

 まず先に言っておこう、この映画の中では、わたしたちの観る映像は全てそのカメラを通したもの。つまり、この映画は登場人物が撮影するカメラの映像で構成されているのだ。ゆえに彼らが撮影していない時は、映像もなく話が飛ぶわけだ。それは話題作『クローバーフィールド/HAKAISHA』のそれと同じ手法だ。『クローバーフィールド』の場合、手ブレがひどく、鑑賞中に気分が悪くなってしまうという状況に陥る人も多かった。しかし、『DIARY OF THE DEAD』で使われているカメラはより高性能のもの。ブレで気分が悪くなるということはないはずだ。また、ビデオカメラ以外にも携帯電話のカメラの録画機能を使った映像や防犯カメラの映像等もこの映画を構成するシーンの一部として使用されている。

 物語は、あるアパートの前から唐突に始まる。パトカーや救急車がそのアパートの前に止められており、警察官やニュースレポーターがいることが確認出来る。わたしたちはテレビカメラマンのカメラを通した映像を観ている。そのアパートではどうやら殺人が起こった様だ。違法移民の夫が妻と息子を銃で撃ち、自らの命も絶ったそうだ。遺体が運ばれて来るものの、その遺体が突然動き出す。ニュースレポーターは『死んでると思ったのに』とコメント。会場は笑いに包まれた。そして妻の遺体が救急隊員に襲いかかる。そして息子の遺体も動き出す。警官はそれらに発砲するがノロノロとせまり続ける妻と息子。息子は頭を打ち抜かれ地面に倒れるが、妻はニュースレポーターの女性に襲いかかる。絶命するレポーター。そしてカメラマンまでもが…。

 シーンが切り替わり、ある若い女性のナレーションが始まる。それは「わたしたちは間違いを犯した」という後悔の念に満ちたものだ。ある夜の暗い森の中、白いドレスを身に纏った長い黒髪の女性が何者かに追われている。そこに突然ミイラが現れる。足が絡まり倒れる女性にそのミイラが素早く襲いかかろうとするが…。そこで「カット」の声が掛かる。そして「ミイラはそんなに動きが速くない」と野次が飛ぶ。彼らは八人の映画科の生徒と一人の教授、合わせて九人による自主制作映画のクルーだった。彼らは生徒の一人ジェイソン・クリードが監督を務めるホラー映画『Dead of the Dead』の撮影をしていたのだ。

 しかし彼らは撮影の最中にあるラジオ放送を聞く。そのラジオ放送によると、死体が蘇り始めているというものだった。「そんなの嘘に決まってる」と言う者もいるが、一行は動揺し、とりあえずジェイソンのガールフレンド、デブラを学生寮に探しに行く。寮に到着するものの、そこはもぬけの殻。恐る恐るデブラを探すジェイソン。デブラは怯えながら部屋に籠り無事だったが、ジェイソンはデブラのパソコンで死んだはずの違法移民が蘇った映像を見て、現実にとんでもない事が起こっているのだと確信する。そして彼は誓うのだった決してカメラは手放さない、ドキュメンタリー映画『Dead of the Dead』を完成させると…。

 この映画の中では上にもある様に、人々は突然何の予告もなくゾンビから襲われ始める。はじめは皆何が起こっているのか分からず、死者が蘇るということにさえ半信半疑だ。ただただ混乱に陥る。それはまさに9/11等のテロを連想させる。また、半信半疑の状態から実際にゾンビを目の当たりにし、友人達も殺され始め、人々の心に変化が起こる。「怒り」の感情が芽生えるのだ。それもまた9/11のテロで打撃を受け、アメリカが始めたイラク戦争と同じだ。とりあえずゾンビ、いわゆる敵を見たら殺すという条件反射的虐殺が行われるのだ。

 それでもゾンビ化現象は進むわけで、この現象はもはや災害と化す。対抗するというよりはもうゾンビから避難するしかなくなるのだ。それはアメリカ、ニューオリンズを襲ったハリケーンカトリーナ等の自然災害を連想させるかもしれない。ほとんどの人は逃げ惑う一方で、ジャーナリストやカメラマンは逃げるどころか危険な所に突っ込んで行く。真実を知りたいという興味か執着か、それとも信念の為か。『DIARY OF THE DEAD』の中のジェイソン・クリードはまさにそれ。周りにいる彼女や友人達は危機に瀕している状態でカメラなんか回すなと促すが、以前からドキュメンタリー映画を作りたかったジェイソンはカメラを手放さず、目の前で起こっている真実を映し続ける。

 映画の中でも行われているのだが、ジェイソン・クリードが真実を映し続けるという行為は、情報が常にコントロールされ、真実が捩じ曲げられて報道される事への抵抗だ。ジェイソンは自分の撮影した映像をMySpaceにアップロードし、こう言う、「今起こっている事をそのまま報道する事で、人々は解決方法を探し出す事ができるかもしれない」と。しかし監督ジョージ・A・ロメロは誰でも簡単に撮った映像をアップロードできるシステムの利便性を表しながらも、その危険性をも示唆する。この映画『DIARY OF THE DEAD』の題名にある"Diary"もビデオダイアリーから採られている。

 ロメロは『ランド・オブ・ザ・デッド』で9/11テロ後の社会を描いた。そして今回の『DIARY OF THE DEAD』でも現代社会を寓話的に風刺している。ロメロは言う、『わたしがやっている事は、現代社会で起こっていることにゾンビを加えただけだ』と。ゾンビはジョージ・A・ロメロという人物の語り部としての欠かせない調味料のようなものだ。ゾンビを映画の中に投入する事により、ロメロの持つストーリーテラーとしての才能に旨味が加わるのだろう。

 1968年に『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』でスクリーンデビューしたジョージ・A・ロメロ。今回の『DIARY OF THE DEAD』はとことこんインディペンデントにこだわった原点回帰的作品にしたかったのだという。もちろん低予算に加え、約20日で撮り終えたという撮影期間の短さはまさにインディペンデント。そして全てが夜に始まるストーリーは『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』のそれとシンクロする。

 今回の作品は実は『ランド・オブ・ザ・デッド』を制作する時から構想はあったとロメロは言った。1つのアイデアに50のストーリーは最低作る事ができると豪語する彼は「現代に起こっている事にゾンビを投入」というアイデアの種を成長させ、『ランド〜』と『DIARY〜』という2つの作品に枝分かれさせた。今作と前作でゾンビを描く上での相違点は、『ランド〜』では知能を持った進化したゾンビを登場させたが、『DIARY〜』ではそれがなかった。実に今までわたしたちが観た事のあるゾンビしか登場しない。ロメロファンの中には今回も進化したゾンビが登場すると思っていた人も多い様だが、それが登場しなかったのは続編的な作品は作らないという監督のポリシーに基づくものだ。それでも今回の『DIARY〜』の最後は続編が生まれそうな予感を漂わせている。監督自身も続編の事は考えたそうだ。

 『ランド・オブ・ザ・デッド』ではデニス・ホッパーをはじめ、ジョン・レグイザモ、サイモン・ベイカー、そしてダリオ・アルジェントの娘エイジア・アルジェント等有名な俳優達を出演させていたが、『DIARY OF THE DAED』はインディペンデントにこだわった作品ゆえに有名俳優は起用していない。それでも強烈なキャラクターが登場する。特にサミュエルという老人は最高だった。言葉をろくに話せないため(老化により?)、学生達にはじめゾンビと間違われるが、大鎌でゾンビに応戦するという奮闘ぶりに会場は大興奮に包まれた。またロメロ監督自身も一瞬出演しており、そのシーンでも大喝采が起きた。テロや災害等の題材を扱っているものの、コテコテなものから皮肉的なものまで、所々に配するユーモアも忘れていない。

 ストーリーが終わり、エンドクレジットが流れ終わると会場は全員総立ちのスタンディングオベーションの嵐に包まれた。そしてすらっと背の高い白髪のロメロ監督が登場。質疑応答でもECコミックを読んで育ったという彼はユーモアを交えての素晴らしいトークを展開。とても格好良い映画監督だった。会場にいた人々はジョージ・A・ロメロという人を愛してしまったに違いない。

 また、興味深かったのは最後のエンドクジットのスペシャルサンクスの所にスティーヴン・キングやクエンティン・タランティーノ、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のサイモン・ペグやギレルモ・デル・トロ等の名前が並んでいた事だ。これだけ大物の名前がスペシャルサンクスに並ぶのは珍しい。皆ロメロ監督に傾倒し、彼の事を愛しているのだろう。この晩は、ジョージ・A・ロメロの新作を鑑賞し、ロメロという人の言葉を直に聞くという貴重なひと時を過ごす事が出来た。そして「デッド・シリーズ」の次回作に一層期待が高まった。

文:岡本太陽
『Diary of the Dead』(原題)
2008年秋、池袋シネマサンシャイン他全国ロードショー
監督:ジョージ・A・ロメロ
配給:プレシディオ





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