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更新 2008年01月17日

『凍える鏡』大嶋拓監督インタビュー

『凍える鏡』というつかみ所のないタイトル、主演は若者役が田中圭、老童話作家が渡辺美佐子、そしてヒロインは映画ではあまり見かけない冨樫真。地味そうだなあと思って見始めると、たしかに地味な話ではありながら、猟奇殺人ものになるのか、サイコスリラーになるのか、とにかく登場人物の素顔が見透かせないまま、予断を許さぬ物語展開にぐいぐいと引き込まれていく。人格障害という重いテーマをあつかいながら決して難解にせず、本作のための書きおろし脚本で独自の境地を開拓した、大嶋拓監督にインタビューする機会を得て、このただならぬ映画の深さに迫ってみた。

---劇場公開作は7年ぶりとのことですが、本作に至った足跡を教えていただけますか?

「完全に7年間ブランクがあったわけでも、構想に7年かかったわけでもなく、この間に6〜7本、ビデオ作品はあって、ビデオ店には私のコーナーもあるくらいです。全部自分のオリジナル脚本で、ちょっとお色気シーンもあって、というやつです。ですがそう言うビデオ作品と、劇場でかかる作品では広がり方も訴求力も違うので、少し間が開いたけれど久々にやってみようかと、そんな感じでした」

---本作の中心になっているのは、主演の田中圭の抱える病気というか、心の闇だと思うんですが、なぜそれを中心に据えられたのでしょう。

「はじめはどちらかというと童話作家の渡辺美佐子さんの、山奥での生活ぶりにモデルになる方がいたので、それを中心にして、晩年の物書きがひっそりと製作に没頭するというアイデアがありました。もう一方で、自分が思い通りにならないと簡単にキレてしまう若者がいて、精神的な耐性というのは本人ばかりの責任ではなく、育てられた環境や親との関係に起因していることが多いので、その人物像を作家と対極の位置に据えることから始めました。三番目の存在となる、作家の娘さんの臨床心理士は、いわばこの両者の橋渡しのような役目ですね。カウンセリングの場面は、自分の大学の専門が心理学だったこともあり、一度描いてみたい部分でした。とにかく主要人物の三人が三人とも、自分の興味の対象にあったというわけです」

---渡辺さんが演じる作家の娘さん、冨樫真さんの役どころが、精神科医でありながら、実は患者やカウンセリングの相手以上に、自分の中に心の闇を抱えていたというのは、たいへんうまい目の付け所という気がしましたね。

「彼女は精神科医ではなくて、正しくは臨床心理士です。良く混同されてしまうのですが、臨床心理士と医者との決定的な違いは、心理学科などの文系大学出身者が多くて、資格は医師の免許のように国家資格ではなく、日本心理臨床学会の公的資格なんです。働く現場はお医者さんと同じ病院で、白衣も着てはいますが、患者を強制入院させる権限とか、投薬は認められていません。ただ話を聞くことまでしかできない。だから劇中でも、カウンセラーだけでは力が及ばない部分に関して、医師に助力を求めるのです。診断確定できず、あくまでも自由診療としてカウンセリングをしている。医療行為でありながら、保険のきかない診療をやっている。医者と同じ職場で同じような仕事をしながら医者にはなれないコンプレックスを、彼女自身が抱えているわけです」

----後半で彼女が実に意外な行動や手段を取ると、舞台劇的な状況設定と併せ、もうただただ引き込まれてしまいました。この映画、どこに行き着くんだろうって!

「舞台劇的な醍醐味を後半に用意していたので、舞台を中心に活躍している冨樫さんを起用しました。雪に囲まれた山荘が舞台なんだから、あえて室内の場面を重ねなくてもいいようなものなんですけどね。心の闇を抱える者の治療にあたる者が、実は自分自身も大きな爆弾を抱えているという構図は、着想として自分でも気に入っている部分です。本作に取り組むために、精神科医にも臨床心理士にもお話を伺いましたが、そもそもこういう仕事に就くこと自体、まずは自分自身の心をのぞきこむところから始まっていますから、自分の幼児期になにかあった人が多いようです。人を癒すことで、自己の問題も克服したいということでしょう」

----出演者の誰もが、その役にドンピシャリの適役であり名演でしたが、脚本執筆の段階で、すでに配役について考慮されていたのでしょうか。

「初稿の段階では役者さんは決まっておらず、第二稿の時点でそろそろ確定でしたので、そうした俳優に合わせて脚本も大きく変わっていきました。渡辺さんが最初に決まっていて、撮影に入るまでにブランクがあったので、物語やキャラクターが大幅に変わっていると指摘されましたね。冨樫さんは渡辺さんの娘と言うことで、風貌に通じるところがあり、同じ血液型の彼女を起用しました。田中圭君の役は、はじめは売れない中年の役者だったんです」

----そうなりますと、この役が画家であることで成立するドラマが成り立たないですよね?

「童話作家が読み聞かせをしに行く保育園がありますが、あそこで新作書きおろしの童話の朗読会を開くので、売れない中年役者が朗読を受け持つ、と言う筋立てでした。その成功が自信につながる、といった感じでした」

----劇中では絵が重要な位置を占めますが、物語の進行につれて作風が変化していきますが、同じアーティストなんですか?

「同じ方です。加瀬世市さんというアーティストに何度も会って、脚本を元に打ち合わせをして、画面に登場する膨大な点数の絵について突き詰めました。加瀬さん本来の作風は、冒頭に登場する作品に近く、何枚かは本人のオリジナルなのですが、後半の作品では画材を変えるなどして、変化をしっかりと示してくださいました。美術の専任スタッフがいなかったので、いっしょに画材を買いに行ったり、スケッチブックを大中小そろえるなどで、私が同行しました」

----アーティストはどうやって選ばれたのですか?

「ネットです。物語のイメージに会いそうな人をスタッフが5,6人選んで、その中からこの人と言うことで、加瀬さんに決めました。劇中で絵を描くシーンは加瀬さんが田中君の代役を務めたので、現場にも何度か来てもらいましたね」

----劇中には緊縛シーンも登場しますが……

「あれは私が指導監督しました。演技者にその素養が全くなかったので。取材の皆さんは遠慮しているのか、なかなか縛りのことにはふれませんが、映画にはああいうエロティックな要素も必要だと思いますよ(笑)ラブホで縛りの演技に入った途端に、どんな場面もこなす田中君がとてもぎこちなくて、『普段、やったことないの?』と訊いたら、『あるわけないじゃないですか!』って即答でした」

----その田中圭さんを起用された経緯は?

「最初は30代の売れない役者のはずでしたが、人格障害が成長期の病ということと、男性は若手にしようと言うことで、画家にしたのはいいんですが、アーティストにしては饒舌すぎて、それを渡辺さんからも指摘されました。自分の気持ちを言葉にできないからこそ、絵に託すんじゃないかと。それで寡黙な様子がしっくり来る役者として、以前から注目していて、世間の認知度もある田中圭君にお願いしました。演技過剰でもなく、かといって淡泊すぎるわけでもない微妙なバランスでした」

----タイトルですが、古いファンは『震える舌』を想起するかと思いますが、どのようにして決められたのでしょう?

「あの映画も、もう20年前の作品ですから、想起するのは、よほどの映画通でしょう。ただ『凍える鏡』というのは、意味を良く訊かれますね。鏡というのは、心理学的には母親を表すそうです。本作では登場人物の幼少時代に、母親の温かみが得られなかったことが下敷きになっているので、冷酷な母親の象徴として、この題名をつけました。前半の主人公は田中君ですが、後半の比重は冨樫さんに移っていきます。彼女は自分の世代と同じか少し下ですが、いわゆる偏差値、詰め込み教育の弊害で、多感な時期に本当の親の愛情を受けていない。その不満を母親に表明しても、母親は子どもの怒りやいらだちが本当には理解できず、なにに不満があるのかわからない。劇中にも渡辺さんのセリフに似たようなものがありますが、これはシナリオを読んで渡辺さんがもらした率直な感想を取り入れています。つまり家庭の根幹をなす愛情を確固として感じられなかった人間は、結婚や、ましてやその先の家庭作りに踏み出す自信がわかない。結婚しない世代が増えていることの意味も、作品にこめてみたのです」 『凍える鏡』
2008年1月26日(土)より、シネマ・アンジェリカにてロードショー
●製作年:2007年
●製作国:日本
●上映時間:1時間40分
●製作:露木栄司、内山 亮 
●監督・脚本:大嶋拓
●出演:田中圭、冨樫真、渡辺美佐子ほか
●製作・配給 :「凍える鏡」製作事務所(TAC/ワコー/エクラアニマル/シネマポルト/AZ)
●制作協力:ニューシネマワークショップ
公式サイト:http://www.kogoeru.net/index.html
© 2007「凍える鏡」製作事務所




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